東京高等裁判所 昭和59年(ラ)614号 決定 1985年12月09日
614号事件抗告人、623号事件相手方
(亡金谷キサ承継人、原審相手方)
金谷久男 外1名
614号事件相手方、623号事件抗告人
(亡金谷キサ承継人、原審申立人)
金谷徳次 外6名
被相続人 金谷義蔵
主文
原審判を取消す。
本件を東京家庭裁判所に差戻す。
理由
一 原審相手方らの第614号事件抗告の趣旨及び理由は別紙第一及び第二記載のとおりであり、原審申立人らの第623号事件抗告の趣旨及び理由は別紙第三及び第四記載のとおりである。
二 原審相手方らの抗告の理由第四について
記録によれば、被相続人金谷義蔵の妻で本件遺産分割申立人の一人であつた金谷キサは、第623号事件抗告を他の原審申立人らとともに申立てたのちである昭和60年1月27日死亡したこと、亡金谷キサの相続人は、同人を除く原審申立人ら及び原審相手方らの全員(いずれも子。以下「本件当事者ら」という。)であることを認めることができる。そうすると、本件当事者らは、被相続人金谷義蔵の相続人たる資格と亡金谷キサの相続人たる資格を併有することになつたものであるところ、このような場合には、本件当事者らは、本件遺産分割申立事件における亡金谷キサの当事者たる地位を当然に承継するとともに、本件遺産分割は、被相続人金谷義蔵及び亡金谷キサの遺産の双方を対象として行なわれるべきものと解するのが相当である。けだし、右両名の相続人は本件当事者らのみであるから、この間で遺産分割を続行するについて別に受継等の手続を要するものと解すべき理由はなく、却つて、本件当事者らの相続分自体が変容を受けること並びに遺産分割にあたり基準とすべき民法906条所定の諸事情に照らすと、被相続人金谷義蔵の遺産について亡金谷キサの死亡前に本件当事者らが有した相続分のみに基づき分割を実行するのでは、同遺産について適正妥当な分割を実現することが期待しえないことに帰するからである。そして、抗告審の性格が続審であることからすると、この理は、亡金谷キサが原審判の日よりのちに死亡したことによつても変るところがないというべきである。もつとも、原審申立人らは、亡金谷キサは公正証書遺言によりその遺産全部を原審申立人らに遺贈しており、その固有財産も多くはないと主張するが、仮にそのような事実があり、したがつて原審相手方らの具体的相続分には変動がないとしても、亡金谷キサが死亡したことを前提とした諸事情のもとに本件遺産分割をなすべきことには変りがないのであるから、前記判断を左右するものではない。
二 そうすると、亡金谷キサを当事者としてなした原審判は相当でないので、他の本件各抗告の理由に対する判断をするまでもなく、原審判は取消しを免れないところ、本件は更に審理を尽すため原裁判所に差戻すのが相当である。
よつて、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 菅本宣太郎 裁判官 山下薫 加藤英継)
別紙第一及び第三<省略>
別紙第二
(中略)
第四相続人の変動について
1 既述のとおり被抗告人金谷キサは昭和60年1月27日死亡したため、現時点と原審判時では相続人関係に変動が生じているのである。しかも同人は3分の1という本件相続人の中でも圧到的に多くの相続分を有しているので、同人が相続人であるか否かにより遺産分割の内容にも重大な影響が生ずることは言うまでもないことである。
2 このように原審判の判断の基礎となつている事実関係に大幅な変更が発生した以上、既に原審判の内容はそれだけで妥当性、相当性を失つていると言うべきであり、これに加え既に主張した原審判の事実面、法律面での誤謬に鑑みるとき、本件遺産分割は原審に差戻したうえ現在の相続人関係と現在の事実関係に立脚し、改めて法律上適正な分割をすべきが最善の方法であると抗告人らは確信する次第である。
別紙第四
〔中略〕
第二本件抗告について
抗告人金谷キサの死亡により本案の審判は被相続人金谷義蔵の遺産分割に被相続人金谷キサの相次相続による遺産分割が加わることになり抗告人は金谷徳次外6名となって、金谷キサの遺産分割は一審でない抗告審で審判ができるのか、それとも、これは一審から始めるべきとの法理論があるので、この御判断は御庁にお任せして、キサの遺言により全遺産は抗告人ら7名が平等に1/7宛相続し、遺言執行者も指定されているので、形式的に一審でも抗告審でも結果は変らないと思料して抗告人代理人は抗告審での相次相続も可能な前提で上申することとした。
以下略